概要
マインドフルネスが職場で効くという報告が増える一方で、必ずしも常に効くわけではない、というネガティブデータも存在する。本研究はその代表的な一例であり、オランダの職場勤労者を対象に、「Mindful VIP」という多要素健康介入を1年間追跡した大規模 RCT である。
介入は単なる瞑想プログラムではなく、(1) 週1回90分・全8回のグループ形式のマインドフルネス研修、(2) ボディスキャンや坐瞑想などのフォーマルな宿題と、PC 起動時の呼吸法・買い物中のマインドフルネスといったインフォーマルな宿題(約30分/日・週5日)、(3) その後8回の e コーチング、(4) 階段使用の促進や職場での無料果物提供といった環境ナッジまでを含む、いわば「全部入り」のパッケージであった。対照群はそのまま通常業務を続け、6ヶ月後と12ヶ月後に業務エンゲージメント・メンタルヘルス・回復必要性・マインドフルネスが評価された。
結果はネガティブだった。介入群と対照群の間に、いずれのアウトカムでも有意差は認められなかった。研修への参加率が高いサブグループに絞っても、ベースラインのエンゲージメント水準で層別しても、効果は浮かび上がらなかった。
ここで重要なのは、「だから瞑想は職場で効かない」と早合点しないことである。本研究自体や、その後の研究が示唆する「効かなかった理由」はいくつかある。第一に、介入が多要素すぎたこと。マインドフルネス研修・宿題・eコーチング・環境ナッジが同時に走るため、純粋なマインドフルネスの寄与を分離できず、どれもが中途半端な用量になりがちである。第二に、コンプライアンスの問題。グループ研修は職場の業務時間に組み込まれづらく、宿題の30分/日・週5日も多忙な勤労者には負担が大きい。第三に、追跡期間が6〜12ヶ月と長く、介入直後にあったかもしれない短期的効果は、その間に薄まってしまう。第四に、アウトカムが業務エンゲージメントというマクロな指標であり、注意やストレスのような瞑想がもっとも効きやすい近位の指標は主要アウトカムではなかった。
メタ分析(例:Bartlett et al., 2019)で職場マインドフルネスが平均としては中〜大きい効果を示すことを踏まえると、本研究の意味は「マインドフルネスは効かない」ではなく、「多要素にまとめて、用量も追跡もアウトカムも揃わない介入では効果は埋もれる」というネガティブだが極めて重要な指摘だ、と読み替えるのが妥当である。
TUNEプロジェクトは、瞑想を「やったかどうか」だけで評価するのではなく、どのくらい集中できていたか、どんな脳波の変化が起きたかを客観指標で追えるようにすることで、こうした「効いたか効いていないか分からない」状態から抜け出すことを目指している。本論文は、その必要性を強く支持するネガティブデータとして位置づけられる。